そのほかの病気 ウィルス病
サックブルード(Sac brood)病
サックブルードウイルスはRNAウイルスのひとつで、感染蜂児の脂肪や筋肉組織に存在しています。感染した蜂児は前蛹期に袋(サック)状になり、頭部側に水がたまった透明状態になることからサックブルードと言われています。
サックブルードウイルスは成虫にも感染しますが、発症はしないため、キャリアとして蜂児に感染を広げる原因となっているようです。本ウイルスは健常群の蜂児やサナギでも比較的高頻度で検出されます。トウヨウミツバチでは重篤な被害をもたらすことはしばしば報告されていますが、セイヨウミツバチでは重症例は知られていません。日本でも時々発生する程度です。
感染症状
サックブルード病の最初の症状として、蜂児の表皮に形成された固い液体を含んだ袋( サック) が観察出来ます。色は灰色、褐色、黒色。蜂児の頭部が角状に巻き上がり、より透明な色を示しますが、有蓋蜂児では暗色となります。肉眼で観察出来る時は、働き蜂により蓋が除去されている状態です。死亡した蜂児の古くなった死骸は、乾燥ミイラ状になっていて簡単につまみ出すことが出来ます。
麻痺病ウイルス(Paralysis virus)
麻痺病ウイルスによる病気は、春から夏によく発生します。しかし、一部の個体にしか症状が現れないため、知らない間に収まることが多いようです。
発症すると、胸部背面と腹部の体毛が脱落し、体の色が黒っぽくなるため、腹部のバンド模様が不鮮明になります。やがて飛ぶことも正常に動くことも出来なくなり、体やハネを痙攣させながら巣門付近を歩くようになります。門番の蜂からしつように体をチェックされ、巣内に入ることが出来なくなり、数日のうちに巣門付近で死亡するミツバチも現れます。このような状況は、一過性で収まることが多いようですが、ひどい場合は、巣門前に数百の死体が見られることもあります。死んだミツバチは黒褐色になるため、他の死亡状況とはっきり区別出来ます。
麻痺ウイルスには、これまで Acute bee paralysis virus (ABPV)、Israel acuteparalysis virus(IAPV)、Kashmir bee virus(KBV)、Slow paralysis virus(SPV)、Chronic paralysis virus(CPV)が見つかっています。現在ミツバチのウイルス病に効果のある薬剤はないので、予防には、媒介者であるミツバチヘギイタダニの抑制と感染した個体の除去を行ってください。
急性麻痺ウイルスとカシミール蜂ウイルス(Acute bee paralysis virus and Kashmir bee virus)
急性麻酔ウイルスとカシミール蜂ウイルスは、同種のウイルスであると考えられています。ミツバチヘギイタダニが寄生している群で発症しやすく、成虫や蜂児に死をもたらします。蜂児での症状は、アメリカ腐疽病( 35ページ参照) やヨーロッパ腐疽病( 37ページ参照)に似ていますが、腐疽病特有のニオイがしないので、それらとは区別がつきます。このウイルスは、ミツバチヘギイタダニが媒介するので、予防にはミツバチヘギイタダニの駆除が有効だと思われます。
イスラエル急性麻痺ウイルス(Israel acute paralysis virus)
イスラエル急性麻痺ウイルスは、2000年にはじめてイスラエルの養蜂場で見つかりました。当初、CCD( Colony CollapseDisorder) との関連性が疑われていましたが、日本を含めた世界各地で感染が確認されている常在性のウイルスであることがわかりました。他の麻痺病と同様に、全滅するような重い被害を蜂群に与えることは稀のようです。このウイルスは、ミツバチヘギイタダニが媒介すると考えられているので、予防にはミツバチヘギイタダニの駆除が有効だと思われます。
遅発性麻痺ウイルス(Slow paralysis virus)
イギリスのミツバチヘギイタダニに寄生していた群で、死亡した働き蜂と蜂児から見つかっています。死亡前に脚先が麻痺するようですが、あまり詳しいことはわかっていません。ミツバチヘギイタダニが媒介すると考えられていますが、このウイルスはイギリス以外では今のところ確認されていません。
慢性麻痺ウイルス(Chronic paralysis virus)
慢性麻痺ウイルスに感染したミツバチは、腹部やハネが痙攣します。飛ぶことが出来なくなった働き蜂は、地面をのろのろと歩いたり植物の茎を登ったりするようになり、やがて死亡します。発症数が1,000匹を越えることもあるようです。最初は巣板の上部に感染個体が集まる傾向があるため、小形で体の色が黒く、体毛が消失して老齢蜂のような個体を見つけたら、早めに取り除きましょう。このウイルスはミツバチヘギイタダニが媒介すると考えられているので、予防にはミツバチヘギイタダニの駆除が有効だと思われます。
その他のウイルス
以下3タイプのウイルスは、ノゼマ症を引き起こすノゼマ微胞子虫( Nosema apis ) から見つかっていることから、ノゼマ症と同じ系統のウイルスであると言われています。
黒色女王蜂児病(Black queen cell virus, Filamentous virus and Y virus)
黒色女王蜂児病ウイルスは、女王蜂の有蓋蜂児( 幼虫やサナギ) の段階で発症します。王台の色が、茶色から黒色に変わり、王台の中で蜂児は死亡します。死んだ蜂児は、淡黄色で皮膚は堅くなり、袋状になっていて、サックブルード病に似ています。感染実験では、働き蜂やオス蜂児では発症しないようですが、このウイルスを持っているノゼマ微胞子虫に感染した働き蜂を通じて、女王蜂の蜂児に感染すると考えられています。日本での発生状況など詳しいことはわかっていません。
チヂレバネウイルスとエジプト蜂ウイルス(Deformed wing virus and Egypt bee virus)
チヂレバネウイルスとエジプト蜂ウイルスは、日本で飼養されていたセイヨウミツバチ群の成虫からはじめて見つかりました。ニホンミツバチからミツバチヘギイタダニを通じてセイヨウミツバチに感染が広がったと考えられています。症状は、羽化した蜂のハネが縮んでいるのが特徴で、簡単に識別出来ます。エジプト蜂ウイルスも同様の症状が発生するため、同系統のウイルスとされています。蜂児で発症すると、死に到ります。このウイルスの予防には、媒介するミツバチヘギイタダニの駆除が有効だと思われます。
クモリバネウイルス(Cloudy Wing Virus、CWV)
クモリバネウイルスが発症すると、働き蜂のハネが不透明になります。働き蜂の活動性は低下して、寿命も短くなるようです。イギリスでは15%以上の群でこのウイルスに感染した個体が見つかりますが、日本ではまだ確認されていません。ミツバチヘギイタダニが媒介するので、予防には、ミツバチヘギイタダニの駆除が有効だと思われます。
セイヨウミツバチにおける病原性微生物一覧