法定伝染病
腐蛆病
腐蛆病は、アメリカ腐蛆病菌(Paenibacilluslarvae subsp. larvae)により発症するアメリカ腐蛆病とヨーロッパ腐蛆病菌( Melissococcusplutonius ) により発症するヨーロッパ腐蛆病が知られています。
2齢以内の蜂児が病原体(芽胞) を含む餌を摂取したときに、1~5齢幼虫の時に発症し死亡しますが、3齢幼虫以降に病原体を摂取しても発症することはありません。
1955年には法定家畜伝染病に指定されたため、感染を確認したら近くの家畜保健衛生所に届け出る必要があります。
腐蛆病を防ぐには、事前の予防対策と早期の発見による拡散防除が大切です。予防薬: 抗生剤の「みつばち用アピテン」が動物用医薬品として承認されています。
アメリカ腐蛆病(AFB、American foulbrood)
アメリカ腐蛆病は、ミツバチが感染する病気の中で最も重い病気です。アメリカ腐蛆病菌が孵化3日以内の幼虫に感染すると、幼虫やサナギの時期に死亡します。有蓋巣房の状態で死亡した幼虫やサナギには芽胞が形成され、無蓋巣房で死亡した蜂児は芽胞を形成する時間がないので働き蜂により巣外へと除去されます。
この菌の特徴である致死的病原性と芽胞形成性は、一度巣箱内が菌で汚染されれば、芽胞を摂取した若い蜂児への感染を繰り返し、やがて巣内だけでなく養蜂場全体に広がり、全滅するため、養蜂業者は大きな損害を受けることになります。
腐蛆病の発症は、養蜂場全体に壊滅的な被害を与えるので、予防と早期の発見が大切です。感染蜂児の特徴を知り、対策に努めましょう。
感染症状
蜂児が腐蛆病に感染して死亡すると、巣某の蓋が黒ずみ、ハリを失って内側にへこんだようになります。働き蜂は、蓋に小さな穴を開けるため、小孔の巣蓋が見られるようになります。初期に感染を発見出来れば、感染拡大を抑えることが出来ます。
死亡した蜂児は、最初は白色ですが、次第に薄茶色、茶色、チョコレート色と濃くなり、ミイラ状の死骸になる頃には暗褐色に変化します。この時期に、巣房に爪楊枝やマッチ棒などを差し込み、ゆっくりと少し回転させながら引き抜くと長く糸を引くようになります( 写真)。これが、腐蛆病の特徴です。 有蓋巣房の状態で死亡した蜂児は、だんだんと水分が抜け、1か月も経つと巣房の入り口から下部に扁平状(スケイル)になった死骸が固着して働き蜂では除去出来なくなります。
やがて巣板全体の様子は、蓋のない無蓋巣房と蓋のある有蓋巣房が点在するようになります(若い蜂児が感染して死亡したため、産卵圏の乱れが起こります)。また感染が拡大すると巣箱内では刺激臭がただよう場合もあります。 もし蜂群の中に穴の開いた巣房、巣房内で腐った蜂児、産卵圏の乱れ、巣内の刺激臭、群の弱小化などの症状があれば、すでに腐蛆病の感染拡大が起きていることになりますので、すぐに対応してください。
感染は春先に多く見られますが、基本的に季節と関係ありません。若い蜂児がいれば、いつでも発生します。
感染経路
腐蛆病菌の芽胞のみがミツバチ蜂児に対して感染性をもっているため芽胞の分布がそのまま腐蛆病の発生と関係し、巣内での拡散が起こります。
死亡した蜂児が巣房に固着すると、一度は働き蜂が清掃、巣外に除去しようとしますが、途中であきらめてしまいます。この時に、口器や体に芽胞が付いて、蜂の移動とともに巣箱内全体(貯蜜も含む)に菌が拡散され、若い蜂児に感染します。
感染に気が付かないままの群の合同や巣板の移動、養蜂器具全般を感染群と健常群で共用するなどの人為的な影響により、瞬く間に感染が広がります。また、盗蜂により外部から芽胞がもたらされ、感染が広がることがありますので、注意してください。
対策
腐蛆病対策として最も有効なのは、春先に「ミツバチ用アピテン」を投与することです。使用方法については、「アピテン」に添付された説明書を参照してください。使用時には用法を守り、帳簿を付けてください 「アピテン」は抗生剤のため、投与開始から1週間後に必ず回収してください。その後、採蜜などをする場合には、2週間以上の休薬期間を設けてください(蜂蜜、ローヤルゼリーなどに抗生剤が残留するため)。その際に必ず貯蜜を除去し、巣礎を入れれば、投薬中に生じた貯蜜を完全に取り除くことが出来ます(使用方法を必ず守ってください)。梅の咲く春先(2月)とセイタカアワダチソウの咲く晩秋(11月)の越冬群を管理する時期に投与すると予防効果が高まります。
「アピテン」による対策は、あくまで予防効果を狙ったものです。一度養蜂場に腐蛆病が発生すると土壌や養蜂器具類に芽胞が付着するため、再発症の危険性が高まり、除去が難しくなりますので注意してください。
ヨーロッパ腐蛆病( EFB、European foulbrood)
ヨーロッパ腐蛆病菌は、蜂児にヨーロッパ腐蛆病菌(Melissococcus plutonius)が感染して発症します。アメリカ腐蛆病菌と大きく異なるのは、芽胞を形成しない点です。
感染症状
ヨーロッパ腐蛆病菌は、若い蜂児に感染し、無蓋巣房の4、5齢幼虫の時期に死亡することが多いとされています。有蓋蜂児やサナギにもまれに感染し、巣房内で死亡することもあります。
死亡した蜂児は灰黒色となり、巣房内ではいろいろな形状で無秩序に横たわります。中には透明化した死体もありますが、これらは2次的な感染菌による影響の可能性があると言われています。
蜂児には、アメリカ腐蛆病で死亡した個体のような粘着性はありません。基本的に、死亡した蜂児は、働き蜂により清掃、除去されます。
ミツバチの体外で長期的に生存するため、再発性が高いと言われています。一度この菌の発病が起きた養蜂場では、毎年慣習的に発病が見られます。
感染経路
感染経路は解明されてはいませんが、アメリカ腐蛆病菌と同じように感染群から人為的な菌の持ち込みや盗蜜により感染が広がっている可能性があります。
対策
アメリカ腐蛆病と同じように「ミツバチ用アピテン」を使って予防します(ただし、効果は限定的と言われています)。